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◆はじめに
illustrations: たけしたてつお
はじまりは、アメリカから成田に向かう飛行機の中でした。突然、奥歯に弱い電気が走ったような違和感を憶えたのです。しかし、その時は、まさか歯根膜炎になるなんて毛ほどにも思わなかった……。第一、私は、歯根膜炎なんて怖い名前の病名、聞いたこともありませんでした。
その後の私は、歯科医院を3軒も訪れ、日夜、悶絶するような激痛に泣きくれました。私は、このサイトに、あの〈悶絶体験〉を公開します。なぜなら、同じ症状で悩まれている方がたの役に、少しでも立ちたいからです。あまり親切でもない私がこう思うほど、歯根膜炎は痛いです。
現在、歯根膜炎の痛みに悶絶されている方は、もしかしたら、私のように歯科医が原因を発見できずにいるのではないでしょうか? そう、私の場合、痛み始めてからなんと35日間も原因がわからずじまいでした。
歯根膜炎の原因は、必ずしも痛みを感じた歯にあるのではないようです。その両脇の歯、上か下の歯、噛み合わせなどが原因になっている可能性もあります。
私の場合は、当の奥歯にできたヒビが原因でした。しかし、このヒビが実に細かったために、2人の医師が原因を見逃してしまいました。そして、そうこうする内に、炎症が日々広がり、悶絶するような痛みを体験したのです。
続きを読むここに歯根膜炎について、私がにわか勉強したことを記します。
* 歯根膜炎とはーー
そもそも歯根膜は、歯と骨(歯槽骨)の間にある線維性の組織。そして、この歯根膜に炎症が起きた状態が歯根膜炎です。
* 症状
激痛、歯が浮いた感じ、人によっては発熱。ひと口に激痛といっても、私の場合は「悶絶するような激痛」でした。生涯で一度も経験したことのない種類の痛み。歯、それも、口中の歯のすべてと言ってもいいほど、「いろいろな歯+下顎」が、疼くなんてもんじゃなく、「歯の中に、何か生き物が棲んでおり、暴れ回っているのではないか?」と思うほど、痛かったです。「Yahoo! JAPANヘルスケア」の歯根膜炎欄には、「食物を噛んだり、歯をこつこつたたくと痛みがひどく、咀嚼が不自由……」と、書かれていますが、「咀嚼=食べ物を噛む」なんてとんでもない! ましてや、「歯をこつこつたたく」? そんな蛮行、歯根膜炎の患者は思いつくことさえできないでしょう。とにかく、そのくらい痛いのよ。西田佐知子じゃないけれど、「♪涙がかわく〜」ほど痛いのよ。
* 原因
さまざまな原因が考えられますが、ネットで検索したところ、歯根膜炎に困っている人の多くが、
1) 医師から、真の原因を発見されないまま
2) 的を得ない治療を続け
3) その結果、症状がますます悪化する
というドロ沼に陥っているようです。
続きを読む 忘れもしません。あれは、入梅を迎えようかという5月31日。ロサンゼルスから成田空港に向かう飛行機の中のことでした(私は現在、ロサンゼルスに住んでいます)。
奥歯(右下、奥から2番目)にムニュムニュというか、ビビビンというか、ジジジンというか、とにかくなんとも不気味な違和感が走りました。直感的に、「これは神経系だ」と思いました。全身にいや〜な予感を憶えた私は、慌ててスチュワーデスさんから痛み止めをもらうと、ごくんと2粒飲み込みました。
さらなる何かが起こることに怯えながら、約10時間。幸い、さらなる何かは起こらぬまま、私は成田に降り立ちました。成田に着くと、公衆電話に直行です。
実はこの歯、約1年前に日本で虫歯を治療してもらっています。その時の医師の判断は、「神経は健康なので残しておく」というものでした。そこで、成田から同じ先生に電話をすると、
「ふーむ。そういう症状なら、今度は、神経を抜くしかないのかも」
と、受話器の向こうで言いました。
歯は生きています。だから、神経を抜かないほうが良いには決まっています。私はがっかりしましたが、一方で、もしかしたら、前日の徹夜による疲れと、機内の気圧変化のせいでそうなっただけで、普通に暮らしていればまた元通りになる、なんて考えたりもしていました。
奥歯に違和感を覚えた翌日が日曜日だったので、月曜の朝、歯科医を訪ねました。
日曜日は、さすがに奥歯が気になり、夢にまで見た「ミツワ」(故郷、京成立石のモツ焼き屋)で、胃袋(ガツ)や腸(シロモツ)を食べることを控えました。文字通り〈断腸の思い〉です。
歯科医では、問診に触診、打診、そしてレントゲン検査。
その結果、お医者さんは、
「やはり神経を抜くまででもなさそう。たぶん、高度な知覚過敏でしょう」
と、診断しました。
そこで、「とりあえず、奥歯の周囲にコーティング材(MSコート=知覚過敏抑制材)を施して、様子を見る」ことになりました。
不安の一夜がどうにか明け、早朝、歯科医に駆け込みました。
先生は、
「もう、こうなったら抜髄しかないね」
と診断。
抜髄とは、「歯髄(歯の神経)を抜く」ということです。
疲労、気圧変化、それに過度の飲酒と、確かに、良くない条件は重なりましたが、ここまできたら致し方ありません。私は、先生の診断に大きくうなずきました。
急患だったので、先生は忙しく、助手の方が抜髄治療にあたりました。
麻酔注射、そして、かぶせ物や、その下に埋めてあったセメントを取った後、神経を抜きます。覚悟もできていたし、痛くもなかったのですが、やはり、歯科器具から響くグィーングィーンという音を聞くのは、気持ちの良いものではありません。
約1時間で抜髄終了。
続きを読む 抜髄(歯の神経を抜くこと)の翌日から、1週間大阪出張。
これといった痛みはなかったけれど、違和感は残っていたので、念のためにいただいたロキソニン(痛み止め)を1日1錠飲み続けました。ずっと昔に神経を抜いた時は、抜いたその日から違和感などなかったのに、「なんか変かも」と少しだけ思いました。
でも、私は、なるべく前向きに考えるように努め、「先生の言われる通り、抜髄の刺激によるものなんだ」と解釈しました。
大阪は食いだおれの街。私も大いに楽しみにしていたのですが、やはり患部(右下、奥から2番目)が気になり食道楽どころではありません(無念)。それに、左でばかり食べていたせいか、どうも左下の奥歯もチト痛み始めているような……。泣きっ面にハチの〈大阪しぐれ〉です( ̄ー ̄)。
続きを読む 激痛の中で、また日曜日を迎えました。歯科医は休診です。
しかし、あまりの苦しみを見かねた家族が、休日診療の医院を見つけてきました。ご近所にあり、しかも評判もすこぶる良いと聞きます。
実は、それまで通院していた歯科医は、家から電車で30分ほどの場所。痛い歯を抱えて、通院するのが辛くなっていた私は、渡りに舟と、とりあえずその歯科医(以降、「第2の医師」と記します)の門を叩きました。
問診に触診、打診、レントゲン、そして、電気診(歯に微量の電流を与え反応を調べる検査)……第2の医師は、丁寧に時間をかけて各種の検査をすると、私の症状を「歯根膜炎」と診断しました。
歯根膜炎! そんな怖い名前の病名、聞いたこともありません。
続きを読む 痛いの痛いの飛んでいけ!
そんな祈りも虚しく、いっこうに激痛はおさまりません。4、5時間おきにロキソニン(痛み止め)を飲み、日に3回、ケフナール(抗生物質)を服用し、氷枕を抱えてうずくまる毎日です。
第2の医師は、痛みがひくようにと必死に治療してくれるのですが、なかなかそうなりません。ただ、この先生の懸命さには大変感銘しました。誠実な治療に、私は、とにかく今は、この人についていこうと決めました。
第2の医師が診断した私の歯根膜炎の原因は、刺激。これを抑えるために、先生は、さまざまな手を打ってくれました(【23日目】止まぬ激痛に、穴を半開き - 悶絶の歯根膜炎参)。
それでも、まったく消える気配のない激痛に、先生は、最終的に究極の裏技ともいえる穴の全開を選択しました。つまり、歯を削り神経を取った穴の部分に、セメントどころかコットンさえも埋めず、空気にさらすのです。そうすることで、圧力(刺激)を抑えるというイレギュラーな治療法です。
それほどまでに、私の痛みは激しく、長期間におよんでいました(ちなみに、全開にしても、きちんとうがいをしていれば、細菌が入り込んでしまうことはまずないそうです)。
続きを読む「地獄のロキソニン(痛み止め)+氷枕生活」が続いています。大学病院で専門医の予約を取ることに手間取りながら、私は毎朝、第2の医師のもとに通っていました。
そんなある日、噂をきいた知人から連絡が入りました。
「銀座に名医がいる。紹介するから、ダメもとで行ってみたら?」
私は、久しぶりに光明を見た思いがしました。というのも、この知人、めったなことで、人に何かを薦めるような人物ではないからです。
指定された日時(痛み始めてから35日目!)に、銀座に歯科医を訪れました。
待合室で待っていると、
「歯根膜炎ってのは、あんた?」
クラシックな白帽に眼鏡、マスクをした年配の先生が、ぶっきらぼうに尋ねました。歯科医というより外科医の雰囲気です。
先生は、私を診察室に導くと、早々に診察を始めました。最近の歯医者さんは、「痛かったら言ってくださいね」と何度も訊いてくれて、逆に、そのせいで恐怖心が増したりするのですが、銀座の名医は、そんなことは一切言いません。私の顎を自分の胸元にグッと引き寄せると、打診を始めました。
「イタッー!」
私は、その度に診察台の上でエビぞりを繰り返します。
「痛がり? 大げさなんじゃないの?」(銀座の名医)
「いえ、大げさでもないし、痛がりでもないハズです」(私)
「ふーん、ハズって言うくらいなら客観的だし、信じてもいいんだろうな」(銀座の名医)
長く苦しく、そして何より痛かった、私の歯根膜炎。その原因は歯のヒビ、したがって処置は抜歯——このようにして、一件は落着しました。下の写真が、抜歯された私の歯です。上下にヒビが入っているのがわかるでしょうか? 歯の底にまで、くっきりとヒビが入っています。
それにしても、これほどのヒビ、第1&第2の医師には見えなかったのでしょうか? 疑問は残りますが、まぁ、済んだことに愚痴は申しますまい。ただ、振り返ってみると、おふたりの医師は、コンピュータ画面に映し出されたレントゲン写真ばかりご覧になっていた気がします。歯のヒビは、レントゲンには映らないことが多いとか。
それに較べて、銀座の名医は、もちろんレントゲンも熱心にチェックされていましたが、歯そのものを根気よく診ておられました。そして、そこに勝因がありました。
あさって、いよいよアメリカに戻るので、最後に銀座の名医を訪ねています。だけど、正直、まだまだ痛いです。抜歯した後の大穴だって、健全なピンク色とはほど遠い不気味な灰色だし(当初は真っ黒だったから、少しは進化)、抜いた歯(右下、奥から2番目)の前後の歯もグラグラしています。
不安でいっぱいの私に、先生は、
「大丈夫」
「いずれ炎症がひけば、歯も安定する」
「しかし、自分が思っていた以上に炎症のひけが遅い」
「でも、飛行機には乗れる」
といったことを話されました。
ただ、
「九分九厘違うとは思うが、今後2週間、抗生物質(クラリス)を飲んでも痛みが激しいようなら、骨髄炎を疑わなくてはならない」
との説明も付け加えました。
コ、コツズイエン???
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